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横浜地方裁判所 昭和27年(モ)714号 判決 1952年12月25日

申請人(五六名選定当事者) 高橋辰雄 外一名

被申請人 中山鋼業株式会社

主文

一、当裁判所が本件(昭和二七年(ヨ)第四三九号地位保全仮処分申請事件)について、昭和二七年一〇月七日に為した仮処分決定を次項のとおり変更し、その余の部分を取消す。

二、被申請人は選定者等に対し別紙支払金額目録A欄記載の金額より所得税法所定の金額を差引いた金員及び昭和二七年一一月一日以降毎月二八日限り一ケ月につきB欄記載の金額より同税法所定の金額を差引いた金員を支払え。

三、申請人のその余の申請を却下する。

四、申請費用は被申請人の負担とする。

五、第一項の仮処分決定を取消した部分は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

申請人は当裁判所が昭和二七年(ヨ)第四三九号地位保全仮処分申請事件について、昭和二七年一〇月七日に為した仮処分決定は、「主文第二、第四項同旨並に被申請人が昭和二七年六月二八日附で別紙人名目録I記載の選定者、同月三〇日附で別紙人名目録II・III記載の選定者に対して為した解雇の意思表示の効力は仮に停止する。」と変更して認可する旨の判決を求め、被申請人は「前記仮処分決定を取消す。申請人の申請を却下する。」旨の判決を求めた。

第二、申請の原因

一、被申請人は薄鉄板の製造販売等を目的とする株式会社であり、選定者等は同社鶴見工場の従業員で、同社従業員により組織される中山鋼業労働組合(以下組合という)の組合員である。

二、被申請人は昭和二七年六月二八日附で別紙人名目録I記載の者に対し、同月三〇日附で同目録II・III記載の者に対し解雇の意思表示をした。然し右解雇はつぎの理由で無効である。

(1)  被申請人会社では同年三月二一日業界の不況を理由に四月分から賃金のうち工程給の三〇パーセント(総収入の約二二パーセント)引下を発表したので組合では会社と団体交渉の末、四月分の賃金として工程給の一四パーセントの引下を認め、両者間の協定が成立した。然るに会社では五月分は工程給の三〇パーセント、六月分は工程給の四五パーセント(総収入の三七パーセント)の引下を行う旨言明し、組合側の反対にも拘らず五月分の賃金は工程給の三〇パーセント引下のまゝ支払われた。組合では六月八日の大会で、賃下を工程給の一四パーセント引下の線でくい止めることと、ストライキを含む一切の実力行使の権限を執行部に委任することを決定しながらも平和的解決をはかり、先に社長が言明した家族持ち最低一二、〇〇〇円の保証を求めて交渉を進めたが妥結しなかつたので、六月二三日闘争宣言を発し、二六日には二四時間ストライキを行つた。二七日に至り会社が既定方針に従い工程給の四五パーセント引で六月分の給料を支払うことが報ぜられたので、これを知つた圧延部門の第一班全員五〇名が二八日午前七時四〇分から職場放棄に入つた。組合では直ちに緊急指令を発し右行動が会社の賃下に対する抗議であることを確認し、暫時組合の統制に従つて待機することを命ずるとともに会社に対し解決のため団体交渉を申入れた。会社ではこれに応じないで同日午後四時告示第一号で職場放棄をした全員を解雇する旨掲示し、午後六時組合執行部八名を含む人名目録(I)記載の者に対し解雇の通告をした。そこで組合ではこれに抗議するため同月三〇日二四時間ストライキを行つたところ人名目録(II)記載の者を含む圧延部員一六四名及び電気課員である同目録(III)記載の者に対し同日附で解雇の通告をして来たのである。

およそ賃金その他の労働条件を労働者の不利益に変更するには労働者又はその組織する労働組合の同意を経て行うべきであるのに、前記のような大幅な賃下を一方的且つ強圧的に行い組合員がこれに抗議して前記のような行動にでたことを理由に大量の解雇を行うことは組合の正当な活動をした故に解雇したというべきで右解雇は労働組合法第七条第一号に違反し無効である。

(2)  被申請人は右解雇に際し給料三〇日分以上の予告手当の支払はもとよりその提供もしていないから労働基準法第二〇条に違反する解雇である。

三、選定者等はいづれも被申請人から受ける賃金で生計を立てているからこれを受けられない時は生活が危殆に瀕し著しい損害を被るおそれがある。選定者等は右解雇の通告の後別紙控除金額目録記載の金額を受取つているだけである。よつて本訴の確定まで前記解雇の意思表示の効力を仮に停止するとともに昭和二七年七月以降毎月賃金の支払日である二八日限り同年四、五、六月分の賃金の平均額である別紙賃金目録記載の金額より選定者が既に受領した別紙控除金額目録記載の金額及び税法所定の金額を差引いた金員の支払を命ずる旨の仮処分を求める。

第三、被申請人の答弁

一、申請人主張の解雇の意思表示をしたことはあるが人名目II記載の四二名については内藤隆治、中村二夫、近内恭正、本木英雄、橋立昭二、工藤道人、平尾喜八、山下長広、池ノ迫力男、大沼茂一、田丸惣治、小島喜俊、長沢孝作、茅野辰二、安川一東、上江洲清栄、二反田春吉の一七名に対しては七月四日に再採用の通知を為し、その余の者に対しては同月一四日に解雇取消の通知を為したところ選定者等所属の組合は同月一六日にストライキを通告して来たので、被申請人は改めて同月一七日に右四二名に解雇の通知をしたのであるからこれ等の者に対する解雇の意思表示は七月一七日である。然しながらいずれしたところで被申請人は昭和二七年一〇月八日附で選定者等全員に対して解雇を撤回し従業員たる地位を認めて今日に至つているから、選定者等は訴訟上その地位の確認を求める利益もないし、従つて解雇の意思表示の効力の停止を求める必要もない。

二、被申請人はつぎの理由により賃金支払の義務がない。

(1)  被申請人と選定者等所属の組合とは六月頃から賃金引下問題について紛争状態に入つていたところ組合では申請人主張のように闘争宣言を発し六月二六、三〇日の二回にわたり二四時間ストライキを行つたので、この争議行為に対する対抗手段として、六月三〇日に圧延工場の閉鎖宣言を為し、且全従業員に対する解雇の形式を以てロツクアウトを行つた。七月五日に至り圧延工場の閉鎖を解除し操業を開始しようとしたが選定者等は出勤せず、且つ前記のように再採用及び解雇取消の通知をしてもこれに応ぜず、組合では七月一六日にストライキを通告して実行に入り今日に及んでいる。会社ではこれに対抗するため前記の通り七月一日附で解雇の形式によりロツクアウトを行いその後一〇月八日に至り選定者全員に対し解雇の取消を行うとともに賃金問題未解決の者の職場立入を拒否する意思を明かにして、これ等の者に対するロツクアウトを継続中であることを示した。なお右の者のうち鈴木末男、早川三郎、相馬良靖、佐藤初、小野塚清、和田二三を除くすべての者は圧延工場の従業員である。

被申請人のとつたロツクアウトは使用者として正当な争議行為であり、従つてこの間及びストライキ中の賃金を支払う義務を免れるものである。

(2)  選定者中鈴木末男、早川三郎、高橋辰雄、坪ノ谷仲二、山家実、梨本国平、平地義彦は六月二五日欠勤届を出したまゝ今日に及んでおり相馬良靖、佐藤初、小野塚清、和田二三も七月一日以降出勤していないから同日以後同人等は賃金を受ける権利はない。 三、被申請人に賃金を支払う義務があるとしても選定者等の大部分の賃金は生活給と能率給(工程給)より成り生活給も生産高により毎月変動するから生産皆無の場合の賃金計算の方法は全然なく単に生活給は賃金総額の三五パーセント、能率給はその六五パーセントと定まつているだけで、能率給についての賃下の未解決である現在では生活給の算出もできず、結局賃金相当額の算定は不可能である。従つて原決定の賃金支払を命ずる部分は失当である。

四、選定者のうち

(1)  作本利成は大阪造船所鶴見工場に本工として採用され現に勤務中であり

(2)  山家実、梨本国平、平尾喜八、池ノ迫力男、福垣三郎、本木英雄、橋立昭二、茅野辰二、鈴木長吉、塚田半治郎、中村知長、正木佐平、塩屋利治、石井富士松、松田義春、中村二夫、近内恭正、松久保郁夫、小島喜俊、田丸惣治、二反田春吉、安川一東、森野貞雄、斎藤多弘、山下長広、大沼茂一は右同所の臨時工として勤務中であり

(3)  渡辺行雄、加藤半三、藤沢俊雄、鈴木清は大谷重工業恩加島製作所に本工として勤務中である。

よつて(1)(3)の者については被保全利益がないし(2)の者については仮処分の必要性がない。

五、被申請人は昭和二七年八月九日選定者のうち井上光則、福垣三郎、加藤半三、伊藤繁秋、鈴木長吉、塚田半次郎、中村知長、正木佐平、須佐一、石井富士松、松田義春、後藤正吾、村松正弘、塩屋利治、茂手木定吉、小牧重次、作本利平、松久保郁夫、鈴木清、森野貞雄、斎藤多弘、上野秋男、斎藤義吉、斎藤義男、藤沢俊雄の二五名に対して七月九日までの平均賃金を支払い同人等は金員受領した。本木英雄、橋立昭二、茅野辰二、中村二夫、山下長広、池ノ迫力男、大沼茂一、上江洲清栄、長沢孝作、小島喜俊、田丸惣治、安川東一、平尾喜八、二反田春吉、工藤道人、近内恭正、内藤隆治の一七名に対しては八月九日に七月四日までの平均賃金を支払い上江洲以外の全員が受領した。また染順次、相馬良靖の二名に対しては一〇月一三日に九月二〇日までの平均賃金の六割を支払い両名は受領した。

よつて賃金の支払を命ぜられる場合にもこの期間の賃金は控除されねばならない。

第四、被申請人の主張に対する申請人の答弁並に反駁

一、六月三〇日以降の経過はつぎのとおりである。

被申請人は同日第三次解雇とともに圧延工場を閉鎖し、その後七月四日、九日、一四日に第二次解雇者全員に再採用の通知をしたのであるが、五日に新労働組合(第二組合と仮称する)を結成させ、第二組合員に限り圧延工場に就業させる旨の告示第六号を掲示して今日に及んでいる。従つて再採用の通知を受けた者も組合を脱退して第二組合に加入しない限り就業できず、その他不明瞭な点もあり、組合では被申請人に団体交渉を申入れたが拒否されたので、七月一六日右の条件を除去し、会社の真意を明かにするまでは就業できぬ旨通知をしたところ、被申請人は一七日に右再採用を受けた者も自己退職と見做して解雇する旨の通知をして来た。また一〇月八日に選定者全員に解雇取消の通知をした後も依然選定者の就業を拒み、賃金の支払義務を認めない。

それ故

(1)  七月中の再採用の通知は第二組合に加入することを条件に就業を許す趣旨のもので、明かに組合の団結権を弱めることを目的の差別待遇で、それ自体不当労働行為であるから無効であり、同月一七日附の解雇は六月三〇日附の解雇を再確認したものに過ぎず、先の解雇の違法性はそのまゝ継続している。

(2)  一〇月八日附の解雇取消の通知は単に地方労働委員会及び仮処分命令に従つていることを仮装したもので、その後も前記の態度をとる以上選定者等が従業員たる地位にあることを否認していると見るべきである。

(3)  組合の七月一六日附の職場放棄の申入は前記(一)の趣旨のもので、ストライキの通告ではないから、被申請人はこれを理由に賃金の支払義務を免れることはない。

二、欠勤の点について

被申請人の主張する者がその主張のような欠勤届を出したことは認めるが、同人等はいずれも被申請人より六月二八日に解雇の通告を受けたのでこれにより欠勤届はその効力を失つた。

また相馬、佐藤、小野塚、和田の四名が就業できなくなつたのは六月三〇日附で解雇通告を受け就業を拒まれたからである。尤も同人等は遅れて通知を受取つたため、七月三日まで就業している。

三、ロツクアウトの主張について

(1)  被申請人は六月二八日、三〇日の解雇通告により選定者等の就業を拒んだのであり、六月三〇日の工場閉鎖は被解雇者の工場への立入りを防ぐためこの違法な解雇の補助手段として行つたものであるから、本当の意味のロツクアウトではなく、従つてこれを理由に賃金支払義務を免れることはできない。

(2)  仮りに被申請人の工場閉鎖が争議行為としてのそれであつても、労働者の団体行動をする権利が憲法で保障され、その争議行為は労働組合法により民事刑事の免責規定を持つているのに反し、使用者の争議行為としての工場閉鎖にはこのような保障も免責規定も持たず、それはいわば所有権にもとずく放任行為であり、その行為により労務の受領遅滞の責を免れることはできない。

(3)  そうでないとしても使用者が争議行為としての工場閉鎖により賃金支払義務を免れるのは、これが正当な理由でなされた場合に限ると言わねばならぬ。然るに本件のそれは前記のとおり労働組合の弱体化を企図するものでそれ自体不当労働行為であるから明かに違法である。

この違法な工場閉鎖は選定者等の属する組合に対してはなお継続している。

四、他の工場で働いている者について

被申請人主張の者がその主張の工場で働いていることは認めるが同人等は被申請人会社に復職するまで日雇として臨時に就職しているに過ぎない。被解雇者が解雇以来長期間にわたり無為に過ごすことはできないので、他から副業的に臨時の収入を得たとしても仮処分の必要がないとはいえない。

五、一部支払の点について

(1)  井上光則以下二五名は別紙控除金額目録記載の二、四日分に当る休業補償金を受取つたが、これは七月四日までの平均賃金ではない。

(2)  本木英雄以下一六名が受取つた同目録記載の金額も四、八日分に当る休業補償金である。

(3)  染順次、相馬良靖に関する部分は認める。

第五、疎明<省略>

理由

第一、まず解雇の意思表示の効力の停止を求める点について考察する。

被申請人が選定者等に対し申請人が主張するような解雇の意思表示をしたこと、ならびに被申請人が一〇月八日附で被解雇者たる選定者の全員に対し解雇を取消す旨の通知をしたことは当事者間に争いのないところである。選定者等が被申請人の解雇の効力を否定して抗争している時、被申請人がその解雇の意思表示を取消す(撤回)ときは、元の解雇の意思表示の有効無効の点は別問題としてその取消以後は従業員たる地位を認めたことに外ならない。尤も被申請人は解雇の意思表示取消の後においても選定者等に対し就業を拒み、賃金支払の義務を否定していることは争いのない事実であるが、そのことと従業員たる地位を認めることとは必しも矛盾する訳ではないから、これある故に右解雇の意思表示の取消にも拘らず従業員たる地位をも否認しているということにはならない。それ故この点については仮処分の必要がないことに帰する。

第二、賃金支払を求める点について

一、解雇の意思表示の性質及び効力

(1)  まず人名目録IIII記載の者に対する解雇の意思表示について考察する。

成立に争いのない甲第三二、三三号証の記載に証人鈴木末男の証言、申請人高橋辰雄本人訊問の結果を綜合すれば右解雇に至るまでの経過は申請の原因一に記されたとおりであること、右被解雇者は組合の執行委員、職場委員、その他組合活動を活溌に行い、又行つていると被申請人側に見られているものであることが一応認められる。一方被申請人は本件においては解雇の理由については特に主張しないのみならず前記各疎明によれば地方労働委員会の審問に際して主張した解雇理由にも見るべきものがないので、この解雇は同人等が労働組合の正当な行為をした故を以て解雇したと認められる。従つて同人等は右解雇通告により就業を拒まれて来たことになるから被申請人は当然労務の受領遅滞に陥り右各解雇の意思表示をした日以後の賃金を支払う義務がある。

(2)  つぎに人名目II記載の者(小牧重次を除く)に対する解雇の意思表示について考察すると、前記各疎明と、成立に争いのない乙第一号証の一乃至一七、第二号証の一乃至二五、第三号証の一乃至四二の各記載並に証人南原喜代一の証言を綜合すれば、同人等に対する解雇は、ストライキに対する個人的考慮をすることなく、他の多数者とともに一括して集団的に行われており、被申請人は解雇後も再採用の意思があることを示し、選定者以外の者でこれに応じて復職したものが多数あることが認められ、これ等の事実から考えるとこの解雇は被申請人が使用者として、組合の争議に対抗するために行つたロツクアウトの一種である集団的解雇と解するのが相当である。従つてこれと同時に行つた工場閉鎖は被解雇者に対してはロツクアウトとして独立した意義は持たない。なお、七月四日と七月一四日にはこの四一名に対しても再採用又は解雇取消の通知があつたけれど右各疎明によればその意味が必しも明確でなく、たとえば一四日附のものには一六日に出勤しないと六月三〇日附で自己退職したものとみなすというような文字があり、従つて七月一七日附の解雇通知も六月三〇日附のそれと別個のものとはいえず、前者を確認したと見るべきである。

しかして使用者の争議手段としてのロツクアウトはそれが正当なものである場合に限り使用者は賃金支払の義務を免れると解されるのでこの点について見ることとする。

前記甲第三二、三三号証の記載に証人鈴木末男の証言、申請人高橋辰雄本人訊問の結果を綜合すれば、被申請人は申請人主張のように業界の不況の名の下に総収入の三七パーセントにも及ぶ賃下を一方的に強行し、この間組合側の団体交渉の要求を拒んだり、またこれを行つても単に自己の既定方針を固持するのみであつたこと、一方組合側は自ら工程給の一四パーセント引下に応じた外久しきにわたり平和的解決に努力して来たこと、六月二六日、三〇日の二四時間ストライキも組合としては前記のような大幅な賃下及び二八日の組合幹部の解雇に遭遇した結果対抗上やむを得ずしたこと、被申請人は六月三〇日の解雇とともに圧延工場を閉鎖し、その後間もなく七月五日に第二組合が結成されるや同組合員に対しては直ちに同工場に就業せしめた上金の貸与を行う等右組合員を著しく優遇し、本件選定者等に対して差別待遇をしたこと、及びこのロツクアウトを行わぬと工場の保全及び保安等に困難を生ずるような事情も存在しなかつたことがそれぞれ認められる。

以上認定の一連の事実を綜合して判断すれば、被申請人会社の右ロツクアウトは組合の団結権を侵害する目的の下になされたものと認めるを相当とし、正当なものとはいえないから、これにより選定者等よりの労務の受領遅滞の責を免れることはできない。

(3)  七月一六日のストライキの主張について

成立に争いのない乙第五、一〇号証の記載、証人南原喜代一、申請人高橋辰雄本人訊問の結果によれば、同日組合では七月一四日附解雇取消による全該当者は本一六日申入れの団体交渉に応ずるまで職場放棄を実施する旨の通告を被申請人に対してしたことが認められるが、一方右各疎明によればこれは七月五日以降告示第六号により圧延工場には第二組合員に限り就業することを許されていたため選定者等の属する組合員は再採用、解雇取消等の通知を受けても無条件で復職することはできないし、その待遇等についても疑問があつたので、一六日に組合の代表者等幹部がこれ等の点を明らかにするため被申請人会社に対し団体交渉を申入れたところ、被申請人側では『交渉に当つた者は、被解雇者であるから相手にできぬ、個人個人の組合員と交渉する。』といつて、これを拒否した(この場合組合の代表者等幹部が団体交渉に当るのは正当である)ことが認められこの事実によると、選定者等は被申請人会社の右の態度を選定者等が組合を脱退することを条件としてのみ交渉に応ずると言う不当なものと考え、また待遇についてもはつきりせず、しかもこの疑問にも答えぬような状態では就業し難いという意味で通告したものと解されるから、右を組合の行つたストライキと見ることはできないばかりでなく、当時被申請人は選定者等に対する前記不当な集団解雇をまだ行つていたのであるから、右の通告により賃金支払の義務を免れることはできない。

(4)  なお小牧重次は証人鈴木末男の証言により真正に成立したと認められる甲第三四号証の記載によれば昭和二七年五月一六日に期限の定めのない工員として入社したが組合員となつたのは九月二一日であると認められ、同人については不当労働行為、争議行為としての集団解雇の問題はないのであるが、被申請人は同人の解雇に当つて労働基準法第二〇条に定める予告手当の支払を提供していないし、成立に争いのない乙第二号証の一九によれば六月三〇日附の解雇を固執していると認められ右解雇の日以後予告期間の経過を以て有効とする効力を生ずる趣旨にとるのは相当でないので、同人に対する解雇もまた無効である。

二、一〇月八日以後のロツクアウトについて

被申請人が同日附で選定者全員の解雇を取消すとともにストライキ中であることを理由に工場への立入を禁止して就労を拒んでいることは前記のとおりである。被申請人はこれを以てロツクアウトの継続であるというけれど、先のロツクアウトが正当でないことは前に認定したとおりであるし、この日から改めてロツクアウト(部分的工場閉鎖)をしたのだと主張するにしても、これを争議手段としてのロツクアウトと認めるに足る疎明すらないから被申請人は自分勝手に労務の受領遅滞をやつているだけのことである。従つて賃金支払の義務を免れない。

三、賃金未確定の主張について

本件弁論の全趣旨によれば、昭和二七年七月分以降の選定者等の賃金については会社との間で紛争中でいまだ解決していないことが認められるけれども、選定者等が支払いを求めている金額は証人鈴木末男の証言と、同証言によつて真正に成立したと認められる甲第三一号証の記載によれば選定者等が被申請人から昭和二七年四、五、六月分の賃金として受けた金額の平均額であることが認められるので、特に反証のない本件に於ては昭和二七年七月一日以降の被申請人の選定者等に支払うべき賃金は一応これによるのが妥当と考える。

四、賃金の一部支払の主張について

選定者等の内被申請人の主張する者が別紙控除金額目録記載の各金額を被申請人より受領したことは申請人の認めるところであるが、一面被申請人は右の者等に対し昭和二七年七月一日以降前記の平均賃金を支払うべきであるから、右被申請人の支払つた金額は前記賃金の一部支払と認むべきである。

第三、緊急性について

一、選定者等は、被申請人から受ける賃金で生計を立てゝいる者であり、その賃金の支払を久しい間受けられない時は、生活が困難となり、著しい損害を受けるおそれがあることはいうまでもないから暫定的な措置として、被申請人に対し賃金の支払を命ずる必要があると言わなければならない。

二、選定者等の内一部の者が他に就職していることについて

被申請人主張の者がその主張の工場に就職していることは争いのないところであるが高橋辰雄本人訊問の結果によれば同人等はいづれも自己及び家族の生命を保つため、被申請人会社に復職するまでの間、臨時に他の会社に就労しており、あるいは日雇あるいは遠隔の地に赴くなど多くの不利益を忍んで就職し、もし復職の認められる時は直ちに復職するつもりでいることが認められるし、その地位や収入についても被申請人の疎明がない以上第三の四の主張はいづれも採用できない。

第四、結論

以上の理由により原決定を変更し被申請人に対しすでに履行期の到来した七月乃至一〇月分の賃金相当の別紙賃金目録記載の金額の四ケ月分から、申請人が一部支払を受けたことを認める別紙控除金額目録記載の金額を差引いた金額(支払金額目録A欄記載の金額)並に昭和二七年一一月以降毎月二八日限り一ケ月に付賃金目録記載の金額(支払金額目録B欄記載の金額)から、それぞれ税法所定の金額を差引いた金員を支払うことを命じ、その余の部分を取消し、その余の申請を却下し、申請費用は民事訴訟法第九二条により被申請人に負担させることとし、右仮処分決定を取消す部分につき同法第七五六条の二を適用して仮執行を宣言し、主文の通り判決する。

(裁判官 山本信政 地京武人 太田夏生)

(別紙人名目録・支払金額目録・控除金額目録・賃金目録省略)

〔参考資料〕

仮処分申請事件

(横浜地方昭和二七年(ヨ)第四三九号昭和二七年一〇月七日決定)

申請人(五六名選定当事者) 高橋辰雄 外一名

被申請人 中山鋼業株式会社

主文

被申請人が昭和二七年六月二八日附で別紙第一人名目録記載の選定者、同月三〇日附で別紙第二第三人名目録記載の選定者に対して為した解雇の意思表示は仮にその効力を停止する。

被申請人は右各選定者に対し昭和二七年七月以降毎月二八日限り別紙賃金目録の記載の各金額から税法所定の金額を差引いた金員を支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

(無保証)

(横浜地方――裁判官 地京武人、瀬戸正二、太田夏生)

(別紙目録省略)

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